2013年度第1回研究会:世界文学とユートピア:J・M・クッツェーの21世紀

2013年5月6日(月・祝)16:00-18:00 成蹊大学10号館2階 第2中会議室

講師:中井亜佐子

講師紹介 一橋大学大学院言語社会研究科教授。英文学(モダニズム、現代英語文学)。単著に『他者の自伝―ポストコロニアル文学を読む』(研究社、2007年)、The English Book and Its Marginalia: Colonial/Postcolonial Literatures after Heart of Darkness(Rodopi, 2000)。共編著に『〈終わり〉への遡行―ポストコロニアリズムの歴史と使命』(英宝社、2012年)、『ジェンダー表象の政治学―ネーション、階級、植民地』(彩流社、2011年)。

 「世界文学」(Weltliteratur) はゲーテの理念として知られるが、マルクス=エンゲルスは『共産党宣言』の中で、複数の国民文学から一つの世界文学が形成される過程を、ブルジョア階級が世界を従属させていくプロセスとして再定義した。翻訳を介すことなく流通し、グローバルな文学市場を席巻する現代英語文学は、まさにこの意味での「世界文学」だと言えるだろう。

 現代の著名な英語作家の多くは活動の拠点を英米に置いているが、J・M・クッツェーは2002年まで南アフリカに住み続けていた。彼の小説はアパルトヘイト期から黒人政権誕生後の南アのローカルな読者と、グローバルな知的階級読者という、異なるオーディエンスに向かって同時発信されていた。一方、オーストラリアに移住し、2003年にノーベル賞を受賞した後のクッツェーは、英語文学が世界文学、グローバル文学として消費される現状を、作品中で自ら批判的に問い直している。その思想は、ガヤトリ・スピヴァクからマルクスに遡るグローバリゼーション批判の系譜上に位置づけることができよう。本発表では、最新作 The Childhood of Jesus (2013) を手がかりとし、英語文学が普遍的な世界文学というユートピアの構想に失敗していく軌跡を、クッツェーとともに辿っていきたい。

関心をお持ちのかたのご来聴を歓迎いたします。会場整理の都合上、前日までに日比野(hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jp)にメールでご一報くださるようにお願いいたします。

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